剣道は、武士の刀による戦いから日本刀や日本の文化と共に発展してきた武道です。
今は、刀の替わりに竹刀を使い、防具を着けて1対1で打突しあいます。見事な一本を目指す稽古によって、心身を鍛練し人間形成を目指します。 剣道を始めようと思っている子供から高齢者の方まで、剣道をわかりやすく紹介します。
剣道とは
1 剣道の歴史について
1)剣道の始まり
剣道は刀を使って戦う剣術がルーツです。当時の武士の修練は、「素振りや木刀で打ち合う方法」と「敵を想定した形」が主でしたが、江戸後期に、防具を着用し竹刀で実際に相手に打ち込む稽古法が確立したことが、今の剣道につながりました。
2)剣道発祥の国
剣道の発祥国は日本です。全日本剣道連盟が日本で生まれたものと定義しました。現在では、世界各国からも日本発祥と認知され、英語でもKENDO(ケンドー)と表記され親しまれています。
3)剣道が拡がった江戸時代
江戸時代の剣道は、真剣での戦いがなくなり、防具を着けての竹刀打ち込み稽古が主流となりました。江戸後期には、多くの流派が生まれ交流試合をすることもありました。
4)明治~昭和初期
維新で職を失なった武士たちには、剣術の試合を興行として収入を得る人もいましたが、西南の役で剣術の必要性が再認識され警察を中心に復活の兆しが見え、やがて武術の振興を図る大日本武徳会が設立されました。大正元年には「剣道」という言葉が使われた「大日本剣道形(今の日本剣道形)」が各流派を統合して制定され、竹刀は日本刀の替わりであるとの考え方が確立しました。
5)第二次大戦後の剣道
戦後は、連合国により剣道の活動を禁じられましたが、昭和27年全日本剣道連盟の結成と共に復活しました。今では老若男女を問わず多くの愛好者が剣道に打ち込んでいます。昭和45年に、国際剣道連盟が発足し、普及活動や国際試合のルールの見直しが続けられ、近年の剣道の国際化の礎となりました。
6) 日本刀について
一般的に知られる日本刀が作られるようになったのは、今から1200年以上前の平安時代中頃とされています。刀身の反りや、刃の部分に「鎬(しのぎ)」と呼ばれる高低があるのは日本刀独特のものです。
武士が戦いで日本刀を使う際、鎬の部分が削れるほど斬り込む様子を表した「しのぎを削る」という表現は現代にも残っています。しのぎを削るような剣技を磨くために発達したのが、現代に残る「剣道」です。
2 剣道の稽古や試合は、どんなことをやるの
初心者は、まず基本動作、姿勢、礼法などを覚え、次に竹刀をもっての素振りに入り、防具をつけての打ち込みへと進みます。基本技をしっかり練習し、やがて自由に打ち合う稽古ができます。とても楽しくなってきます。
竹刀で行う稽古でも日本刀の操法である「しのぎを使い物打ちで切る」ということを念頭において行います。 相手の心や気力・体力を直接感じ取りながら、他者を尊重し自己の精神と身体を鍛えていきます。
見事な1本は奥が深く、この追究には一生かけても先が見えないと言われます。剣道が日本の文化遺産といわれる所以です。
試合は、相手と面・小手・胴・突きを打突しあい、有効(一本)となる打突を審判が判定します。通常は時間内に2本取った選手が勝ちます。子ども達から高齢者までの各年代に応じた地域大会から全国大会まで多くの試合があります。試合を目指して努力する姿も尊いものです。
3 剣道の稽古で何が身につきますか
- 剣道は「礼に始まり礼に終わる」といわれ、稽古のはじめや終わりに相手や道場への礼を行います。やがて誰にでも、どこででも自然に礼やあいさつができ、相手を尊重する心も備わってきます。
- 構えや身のこなしなどの稽古や心の成長により、美しく凜とした姿勢になります。
- 大きな気合いと勇気をもって打ち込むことで、旺盛な気力が養われます。
- 身体が丈夫になるのはもちろん、精神面でも集中力、判断力、決断力、忍耐力などが磨かれ人間力の向上につながります。
- 大きな声を出すので、気持ちも爽快となりストレス発散にもなります。相手に集中し自分に向き合うことで、充実感や達成感が得られ精神の健康につながります。
- 剣道は、生涯にわたり親しむことができ、道を求めることができます。高齢となっても心はチャレンジャーです。
それぞれの世代で楽しむ剣道
4 子どもの剣道について
- 子供たちの多くは小学生からはじめますが、幼年でも受け入れ、年齢に応じた指導をしているところも多くあります。
- 男子のスポーツというイメージもありますが、男女関係なく楽しめ、試合も一緒に行 うことが多く、たくさんの女子剣士が活躍しています。
- 大きな身体、小さな身体それぞれにあった技があり体格に関係なく互角にできます。
- 剣道は、続ける気持ちのある人が力を付けていきます。頑張った人は誰でも実力が付きます。
- 1対1で直接相手の心や気力を感じながら稽古することで、集中力が高まります。
- 子ども達の剣道着袴姿はとても凜々しく、頑張って打ち込む姿には感動します。
- 稽古は、週に2~3回の所が多いようですが道場によって異なるので確認して下さい。
- 剣道は礼節を重んじ、他者を尊重することを教えられるので、どこに行ってもしっかり挨拶ができるようになります。
- 礼を重んじながら、旺盛な気力とたくましい身体が培われていきます。
少しでも関心があれば、まずはお近くの道場や公営の体育館・武道館へ。
どこでも見学体験できます。
5 中学生や高校生の剣道について
- 剣道は、刀を操作する方法を学ぶので、独特の動きや身のこなしがあり、他のスポーツの得意不得意に拘わらずスタートラインは皆同じです。一生懸命やった人は誰でも実力を付けて行きます。
- 中学生から剣道を始める人はとても多くいます。中学生の時期は心身の成長が著しく、小学校からはじめた人にも負けないで活躍しています。
- 日本の伝統的な文化や礼儀作法を学ぶことができ、社会の中で信頼される行動の土台ができます。 特に女子は端正で美しい姿勢や作法の基礎もできます。真っ白な剣道着や袴を着用する人が多いようです。
- 稽古によって冷静な判断力、旺盛な気力、健康な身体、思いやる心などが身につき大きな成長に繋がります。友人も幅広くなります。
- 剣道は技や工夫によって体格の差に関係なく楽しめます。基本技を繰り返し練習することで一定の実力がつき、しっかり稽古すれば誰でも有段者になれます。その段位は一生の資格となり世界中どこに行っても通用するものです。
- 中学、高校と剣道を続けると十分に鍛錬した剣道と認められる三段を取得する人が多くなります。その時点では大人の人とやっても十分に楽しめる実力になり、この六年間の稽古は人生の大きな財産となります。少しでも関心があれば、まずはお近くの道場や武道館へ。どこでも見学できます。
6 女性の剣道について
女性が剣道?と思われる方が多いかもしれませんが実際には多くの女性が剣道に親しんでいます。
- はじめは、ジャージ姿で軽いトレーニングのつもりでもできますが、剣道着や袴姿はとても凜として美しいものです。女性は真っ白な剣道着・袴を愛用する人も多いようです。是非体験して下さい。
- 稽古を続けることで、美しく端正な姿勢、身のこなし、着こなしが身につきます。
- 剣道は、竹刀の操作が重要で、相手との距離(間合い)があるため、体格や男女、年齢の隔たり無しに楽しむことができます。
- 女性には、指導者にふさわしい特性もあり、子供と一緒に始めて指導者になった人も多く、社会貢献にもつながっています。
- 大きい声で打ち合う爽快さは運動不足やストレス解消にもなり、交友関係も広がり、子ども達とも共通の話題ができます。
- 女性は、基本をしっかりと身につけることで実力がつき、男性のように力任せになることもなく理論に則った技前での勝負ができます。
少しでも関心があれば、まずはお近くの道場や武道館へ。どこでも見学できます。
7 成人から高齢者の剣道について
- 成人の人が初心者から剣道を始めるのは勇気がいると思いますが、剣道は何歳からでも始められていくつになってもできます。
- 仕事や日常生活のメリハリ・刺激として週に一回でもやろうと思えば、剣道はどこでもできます。
- 自分の所属団体に関係なくみんなが自由に集まっての稽古会がどこでも行われています。どこでも自由にやれるのは剣道ならではです。年代や職業を越えた、新しい仲間や友人ができ、人生の幅も拡がります。
- 剣道は、年齢や体力に応じて修行できます。それぞれに質の高さを求める求道心が芽生え、充実感と達成感が満ち、多くの人が生涯剣道に親しみます。剣道は奥が深くどこまでも研究工夫の楽しみが尽きないからです。
- 「剣の理法」について、全剣連の和英辞典では「一回しかない自分の人生は、相手に対して打ち下ろす刀(竹刀)の一降りに託されているが故に、全身全霊でその一振り一振りに自分の全てを込めなければならない。・・・しかも正しい心をもって実行することを求めた方法のことである。」と説明しています。
- 段位は稽古の励みでもあり、自分の剣道のレベルを知る貴重な機会です。大人になってから始めて七段まで到達する人も少なくありません。
- 自己の求道心の求めに従って修行していくことで、充実した人生を得ることでしょう。70・80歳になっても多くの方々が皆と一緒に汗を流しています。まさしく生涯にわたり楽しめる剣の道です。まずはお近くの道場や武道館へ。どこでも見学できます。
8 しばらくブランクがあっても大丈夫?
- かつて取得した段位はそのまま個人の資格として登録されています。頑張っていた当時の技術やイメージは残っていて稽古によってすぐ元に戻ります。
- 昔の感覚だけが先走るとけがに繋がります。身体をならしながら始めて下さい。
- かつての修行は、そのまま下地と成っているので、高いレベルから再スタートできます。10年ぶり、20年ぶりという人も少なくありません。
少しでも関心があれば、まずはお近くの道場や武道館へ。どこでも見学できます。
剣道のここが知りたい
9 どこではじめたらいいの
- 多くは、各自治体の公共体育施設や学校の施設でやっています。他にも道場として開いているところもあります。関連団体情報を参照して下さい。
- 子供たちは、基本を覚えるのにどこかの団体に入門するのが良いと思います。
それぞれの地域で、多くの団体が活動しています。行きやすさなどの情報を見て見学してみて下さい。体験してみるのも良いと思います。
10 はじめるのに何が必要で、いくらかかるの?
- まずは竹刀だけで大丈夫です。次に剣道着と袴、そして剣道具と揃えて行きます。
- 県内各地域に剣道具の専門店があります。相談に乗ってくれると思います。また、他にも多くの店があります。道場によっては貸し出し品を準備しているところもあります。
- 竹刀は約2000円前後から、剣道着・袴は約七・八千円から、剣道具は約4万円くらいからで、道場の会費は月数千円からのところからが多いようですが、何が含まれるかによって異なります。
- 竹刀は壊れたら買い換えが必要です。剣道具は、小学生の内はほとんど買い換えは必要ないようですが、成長の度合いによります。
11 安全性・痛み・臭いが心配
- 剣道は、防具で身を守っているので打ち合っても基本的に安全です。
- 常に相手を尊重し、ルールやマナーを大切にする公正な姿勢態度が求められるので暴力的になることもありません。
- オーバートレーニングや転倒、用具の不整備などで傷害が起こることもありますが、スポーツ傷害の調査によると、他のスポーツより外傷は少ないようです。
- 施設や用具の安全面、熱中症等の傷病に対する予防等、競技者の健康管理にも十分な配慮をして活動しています。
- 竹刀で頭や手を打たれるので痛そうだと思われますが、互いが基本技術をマスターすることで安全にでき、痛みも感じない人が多いようです。
- 剣道はくさいというイメージがありますが、最近は剣道着・袴や剣道具の素材が進化し、洗濯もでき、防臭・防菌スプレーなども出回るなど改善が進んでいます。実際には、気にする人はほとんどいないようです。
12 段位や級位とはどんなものですか
- 級位は全日本剣道連盟と各地域の剣道連盟で定めています。基本の修得の度合いによって決まっており、子供達には、大きな励みになります。
- 段位は、初段から八段まであります。初段の受審資格は13才以上の者。以降はそれぞれの段位に応じた修業年限と基準が定められており、五段までは県内の審査会、六段から八段までは全国の審査会で審査が行われます。
- 剣道実技審査は、剣技だけでなく礼法や着装などの観点も含まれます。ほかに日本剣道形審査、学科審査を行います。
- 合格した人は、生涯の資格となり世界に通用する全日本剣道連盟の登録有段者となります。履歴書などにも記入できる公の資格となります。
13 日本刀や剣道に関することわざや名言を知りたい
※多くの名著、名言、ことわざがありますが、主なものの一部を紹介します。
1)日本刀に関することわざ
「相槌を打つ」
刀鍛冶がリズムを合わせ交互に刀を打つように相手の話に合わせて反応する事
「鎬を削る」
刀の鎬がぶつかり合い、削れるほどの激しい戦いの様子
「反りが合わない」
刀にはそれぞれに反りがあり、他の刀の鞘には入らない事から、相性が合わない事
「元の鞘に納まる」
他の鞘に入らなかった刀が本来の元の鞘にはスムーズに入ることから、仲違いした者が元通り一緒になること
「おっとり刀」
刀を腰に差す間もなく、手にとって、大急ぎで行くこと
「急場しのぎ」
本来は、急刃凌ぎであり、戦場で刀の刃が欠けたとき、とりあえず戦えるようにしたことから間に合わせでその場を切り抜けること
「さや当て」
武士同士がすれ違い、お互いの鞘がぶつかって喧嘩となることがあったことから些細な事で喧嘩を売ること
「切羽詰まる」
切羽とは刀の鍔を固定する金具です。これが詰まると刀が抜けなくなってしまうことから身動きできないほど追い詰められた状態の事
「単刀直入」
1本の刀(一人)で敵陣に切り込むことで、前置きなく直接本題に入ること
「付け焼き刃」
刃のなくなった刀に、焼き刃だけを付け足して使ったことから、とりあえず間に合わせに習い覚えること
「目貫(抜き)通り」
目貫とは刀の柄の中央部にある大切な金具であり、現在では街の中心の大通りの事
「身から出たさび」
刀のさびがおもに刀身から出ることから自分の悪行によって自分が苦しむこと
2)名著、名言
【猫の妙術】 (丹波十郎左衛門忠明 1727年著 著書に天狗芸術論など)
(主な内容) 勝軒という剣術家の家に一匹の大鼠が住みついて大暴れしている。そこで近所中の腕自慢の猫たちを連れてきたがどれも適わない。ついに業を煮やして自ら木剣で撃ち殺そうとするが逆に顔にかみつかれてしまった。最後に無類の逸物の古猫を借りてきたが、その猫は元気もなく動きも鈍い。ところが、いざ、座敷に入れてみるとゆっくりと追い詰め、大鼠はすくみ上がって動けなくなり簡単に噛みくわえて出てきた。
その夜、猫たちが集い古猫に教えを請うた。若い黒猫は技を鍛練したこと、虎猫は気を修行したこと、灰色猫は心の修行をしたことを話し、古猫はそれぞれに極意を説いていく。
最後に、古猫が言う。自分も未だ未熟である。上には上がいる。自分の先輩である猫は、一日中居眠りばかりで気勢もない。まるで木の猫のようだ。しかし、不思議なことにその猫の近辺には一匹の鼠もいない。私はその猫に遠く及ばない。
さらに、この後、勝軒と古猫の剣術談義が始まる。そこで古猫は敵とは何か、心のあり方とは、武士とは、そして剣道修行の道筋について説いて行く。勝軒は説話を聞いて妙教を自得し剣聖になったということである。
※原文は長文ですが、剣道修行の道を、順序立てて全体的に説いた極意書で剣道界では屈指の名著の一つとなっています。是非お読み下さい。
【持田盛二範士 遺訓】 (1885年~1974年 剣道範士十段)
私は剣道の基礎を体で覚えるのに五十年かかった。
私の剣道は五十を過ぎてから本当の修行に入った。心で剣道しようとしたからである。
六十歳になると足腰が弱くなる。この弱さを補うのは心である。心を働かして弱点を補うように努めた。
七十歳になると身体全体が弱くなる。こんどは心を動かさない修行をした。心が動かなくなれば、相手の心がこちらの鏡に映ってくる。心を静かに動かされないよう努めた。
八十歳になると心は動かなくなった。だが時々雑念が入る。心の中に雑念を入れないように修行している。